1.「見えない監獄」と呼ばれた教室
少し、昔話をさせてください。
私が子供だった昭和の時代、地方の田舎町において「母子家庭」は、それだけで「異物」でした。
大人の事情など分からない子供たちは、無邪気に、そして残酷に問いかけてきます。
「お前ん家、なんでお母さんしか居ねぇの?」
私が正直に事情を話すと、それは瞬く間に学校中に広まり、私は「イレギュラー」としていじめの標的になりました。
逃げ場のない教室。
突き刺さる視線。
そこは学校という名の「見えない監獄」でした。
HSP(人一倍敏感な気質)を持つ私にとって、他人の悪意や嘲笑は、物理的な痛みとして神経を焼き尽くします。
このままでは、心が壊れて死んでしまう。
そう直感した私のシステムは、緊急回避行動を取りました。
それが「デジタル世界への亡命」でした。
2. 私を救った「シェルター」の進化論
現実世界が地獄なら、別の世界を作ればいい。
私の「逃避」は、テクノロジーの進化と共に、より強固な「要塞」へとアップデートされていきました。
第一形態:MSX(論理との出会い)
最初の救世主は、レトロPCの名機「MSX」。
テレビ画面に映るドット絵の世界には、理不尽な暴力も、予測不能な感情もありません。
プログラムした通りに動き、間違えればエラーが出る。
その「公正な論理」に、私は初めて安心感を覚えました。
第二形態:PC-8801MC & ワープロ(創作の塔)
思春期に入ると、「PC-8801MC」とワープロ(Panasonic FW-U1J85)が私の部屋に鎮座しました。
PC-88が魅せるリッチなゲーム世界と、ワープロが提供する「物語執筆」の環境。
私は部屋に鍵をかけ、現実のノイズを遮断し、ひたすらインプットとアウトプットに没頭しました。
周囲から「暗い」「オタク」と指さされても、このコックピットに座っている時だけは、私は「万能な創造主」になれました。
第三形態:Mac Performa 6410(表現の海へ)
やがて手に入れた「Mac Performa 6410」は、私にクリエイティブな表現の喜びを教えてくれました。
そして最後に行き着いたのが、「PC/AT互換機(自作PC)」の世界。
マシンの構造そのものを理解し、自分で組み立てる。
それは、現在の私が自分の脳(Athlon)を分析し、カスタマイズしようとする姿勢そのものです。
3.「逃避」ではなく「防衛」である
私が「思考の森」で出会った精神心理学のエキスパート、Dr.クララは、私のこのガジェット遍歴を聞いてこう言いました。
「あなたは『努力を怠った』のではありません。
心理学、特にポリヴェーガル理論の観点から見れば、それはあなたの心が、圧倒的な脅威から自らを守るために必死で見つけ出した、最も賢明な『適応戦略』であり、神経系の『防衛反応』なのです」
人間を含む動物には、命の危険を感じた時に発動する原始的な防御システムがあります。
- 戦う(Fight)
- 逃げる(Flight)
- 凍りつく(Freeze) —— 死んだふりをしてやり過ごす
当時の私にとって、学校という戦場で「戦う」ことは不可能でした。
だから、私の脳は「逃げる(デジタルの城へ籠城する)」ことを選んだのです。
つまり、私の引きこもりやガジェットへの没頭は、「ウイルス(悪意)」からシステム(命)を守るために、ファイアウォールを全力で展開し、外部ネットワークを遮断した状態だったのです。
それは誤作動ではなく、「セキュリティシステムの正常作動」でした。
4. 自分を守った自分を、褒めてあげよう
もし今、学校や会社に行けず、「逃げてしまった」と自分を責めている人がいたら、私は伝えたいです。
あなたは、弱いから逃げたのではありません。
あなたの生存本能が、「この場所にいたら死ぬぞ!」と正しくアラートを鳴らし、あなたを緊急避難させてくれたのです。
かつての私が、MSXやワープロの画面の中に逃げ込んだおかげで、今こうして文章を書き、あなたと繋がることができているように。
その「逃避」は、いつか必ず、あなたを守る「武器」や「スキル」に変わります。
だから今は、安全なシェルターの中で、好きなものに囲まれて、ゆっくりとCPUを冷やしてください。
逃げることは、生きることそのものなのですから。



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