オリュンピュア財閥によって囚われの身になっているとされる、デメテル・ケレスが隔離されている区画。
身体の自由と、ある程度の要求は受け入れられるが、外界とは完全に遮断されており、その美しい原風景はさながら箱庭のようでもある。
デメテル・ケレスと「奈落の楽園郷」
デメテル・ケレスは、アイガイオン・タワー最下層に設けられた閉鎖生態区画「奈落の楽園郷(Paradisus in Abysso)」に幽閉されているとされるが、登録上も記録上も全く存在しないものとされている。。
しかし、そこには鉄格子も拘束具も存在しない。
広大な庭園、住居、書庫、季節を再現する環境制御設備が備えられ、デメテルには区画内を自由に移動し、望む生活を送る権利が与えられている。
ただし、区画の外へ出る自由だけは存在しない。
それは牢獄ではなく、他者によって選択肢の範囲を定められた「柵の中の自由」である。
デメテルとクロノス・オリュンピュアの間に法的な婚姻関係はない。デメテルは現在もケレス姓を名乗り、二人の実子であるレオもまた、母方の姓を継いでいる。
デメテルが奈落の楽園郷に置かれている理由は、彼女がケレス家の血脈に伝わる未来感応能力を持つためである。
彼女の能力は、強く思う相手へ祈りを向けることで、その人物を取り巻く未来の可能性へ触れるというものだった。
デメテルの祈りは、常に息子レオへ向けられている。
彼が生き延びること。
彼が自由であること。
母を救おうとするあまり、自分自身を失わないこと。
しかし、奈落の楽園郷全体に組み込まれた巨大演算システム「オラクル・テラリウム」は、その祈りを密かに収集している。
システムは、祈りに含まれる愛情や希望を除去し、デメテルが恐れている喪失、破局、死、挫折の可能性だけを抽出する。
そして、それらを反転・増幅し、人間がどの条件で希望を失い、抵抗を諦め、支配を受け入れるかを予測する「絶望のアルゴリズム」へ変換する。
デメテルが息子を守ろうと強く祈るほど、オリュンピュアは人間を絶望させるための精密な未来予測を得る。
彼女の祈りは失われてはいない。
ただ、その祈りが生み出す影だけが切り取られ、世界を支配するための演算資源として利用されている。


