静域(Sanctuary)No.007―2:スーパーロボットというエポックメイキング――「鉄の城」マジンガーZ――人は、神にも悪魔にもなれる

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静域(Sanctuary)No.007―1:スーパーロボットというエポックメイキング――「鉄の城」マジンガーZ――人は、神にも悪魔にもなれる
序章――空を飛ぶ拳を見た日とばせ、鉄拳、ロケットパンチ!いまだ、出すんだ、ブレストファイヤー!――ご存じ、スーパーロボットという言葉をこの世に定着させた金字塔、『マジンガーZ』。その代名詞ともいうべき必殺武器が、ロケットパンチである。文字ど…

序章――遅ればせながら

「お待たせ――って、今日、何か打ち合わせあったっけ?」

聞き慣れた少年の声とともに、《霧の砂糖(シュクル・ド・ブリュム)》の扉が開いた。

レオ・ケレスは、いつもの工具類を詰め込んだ肩掛け鞄を提げ、こちらを見て怪訝そうに眉を寄せた。

テーブルの中央には、小さなホールケーキが置かれている。

「……何これ」

「六月分の未処理案件です」

クロニカが、いつもの事務的な口調で答えた。

「レオ・ケレス様のお誕生日祝いが未実施でしたので、遡及して執行します」

「誕生日って、遡及執行するものなの?」

「今回は特例です」

「――ま、いいけどさあ」

レオは僕とクロニカを交互に見たあと、ケーキの上に載せられた、小さな拳型のチョコレートへ目を留めた。

「これ、ロケットパンチ? アイアンカッター? それとも大車輪ロケットパンチ?」

「後半二つは絶対に違うけど、そう見える?」

「見える。で、飛ぶの?」

「残念ながら飛ばないよ」

レオは、心底残念そうな顔をした。

「駄目だなあ。マジンガーZは、飛ばせるものを飛ばして完成するんだよ」

「ずいぶん乱暴な完成条件だね」

「自分が空を飛べなかった頃だって、ミサイルにつかまって無理やり飛んだじゃん」

「アフロダイAのあれか。レオは、よくそういう豆知識を突いてくるなあ。次からは考慮しておくよ」

僕が軽口を叩きながら笑うと、レオは急に真面目な顔になり、肩をすくめた。

「そういうところが、兄ちゃんの面白いところなんだよな」

「どういうところ?」

「チョコレートのロケットパンチが本当に飛び出す可能性を、ちょっとだけ考えちゃうところ」

「いや、そこまでは――」

「実際に飛んだら、俺、ここのパティシエに良い医者を紹介するよ」

「発明家として称賛するんじゃないの?」

「菓子職人が、ケーキに火薬かスプリングを仕込んでいたら、まず心配した方がいいだろ」

「それはもっともだね」

くだんのパティシエからは、いかにもレオが喜びそうなプロ野球チップスと、そのおまけのカードまで添えられていた。

僕たち三人は改めてソフトドリンクの入ったグラスを掲げる。

「ハッピーバースデー・トゥー・レオ!」

ささやかな乾杯の声が、《霧の砂糖》の片隅に響いた。

「ありがと」

レオは照れくさそうに短く答え、グラスへ口をつけた。

それからケーキを切り分けるより先に、プロ野球チップスの袋を開ける。

どうやら、お気に入りの選手のカードが出たらしい。

「おっ、当たり」

カードを光へかざして眺めながら、レオは途端に上機嫌になった。

「――で、兄ちゃんはさっきから、クロニカさんと何をくっちゃべってたわけ?」

「何って、原稿の話だよ」

「まさか、マジンガーZのお題だけで一時間も持たせてたの?」

「持たせていたんじゃない。まだ、話し足りないくらいだよ」

僕が答えると、レオは呆れたように目を細めた。

「ロケットパンチと超合金だけで?」

「それだけじゃない。人間が巨大ロボットの中へ乗り込むという発明や、最初は満足に歩くことすらできなかった甲児の話もしていた」

「ふうん」

レオは、カードを菓子袋の上へ丁寧に置いた。

その仕草だけを見ると、先ほどまで拳型のチョコレートを飛ばそうとしていた少年とは思えない。

「つまり、完成された最強兵器を、未完成の少年に渡した話?」

僕とクロニカは、ほとんど同時にレオを見た。

「……ずいぶん簡単にまとめるね」

「だって、そうだろ?」

レオはフォークの先で、ケーキのクリームを少しすくった。

「マジンガーZは、十蔵じいさんがほとんど完成させていた。超合金Zの身体も、光子力エネルギーも、ロケットパンチもブレストファイヤーもある。機械としては、最初からとんでもなく強い」

「一方で、甲児は操縦方法さえ知らなかった」

クロニカが応じる。

「歩かせれば建物を壊す。弟を踏み潰しかける。まさに、機体性能と操縦者の能力が釣り合っていない状態でした」

「そう。だから面白いんだよ」

レオは、事もなげに言った。

「普通は、主人公が成長するのに合わせて、武器や機体も強くなっていく。でもマジンガーZは、先に力の方が完成している」

「人間が、後から追いつかなければならない」

僕が言うと、レオはうなずいた。

「甲児がマジンガーZを強くするんじゃない。最初は、甲児の方がマジンガーZに見合う人間にならなきゃいけないんだ」

完成された最強兵器と、未完成の少年。

その不釣り合いな組み合わせから、『マジンガーZ』の物語は始まった。

だが、果たしてマジンガーZは、本当に完成していたのだろうか。

超合金Zの身体も、無敵の兵装も、人を救う意思までは持っていない。

人間の頭脳を加えただけでは、強大な兵器が動き始めるにすぎない。

そこへ人の心が加わったとき、初めてマジンガーZは、未来と勇気をもたらす存在になる。

「だったらさ」

レオは拳型のチョコレートを指先でつまみ上げた。

「完成してなかったのは、甲児だけじゃないんじゃない?」


4.「お前は神にも悪魔にもなれる」

「マジンガーも――?」

レオの言葉を何度も反芻するように、僕は言った。

「十蔵じいさんは、『お前は神にも悪魔にもなれる』って、甲児に言ったじゃん」

レオは、拳型のチョコレートを指先でもてあそびながら続ける。

「あれってさ、甲児だけに向けた言葉じゃないと思うわけ」

「レオ様。それは、マジンガーZ自体もまた『神にも悪魔にもなれる』と告げられた、という意味でしょうか?」

クロニカが慎重に問い返す。

その答えに、レオはわずかに眉を上げた。

及第点には届いている。だが、まだ何かが足りない。

そんな顔だった。

「もう少し、言葉のおまけが欲しいな。このカードみたいにさ」

そう言って、先ほど引き当てたプロ野球選手のカードを軽く掲げる。

「甲児だけでもない。マジンガーだけでもない」

レオは、今度は真面目な口調で言った。

「マジンガーっていう器に甲児の魂が乗って、初めて一つの存在として完成する。『神にも悪魔にもなれる』っていうのは、その二つが結びついたものに対する言葉なんじゃないかな」

「マジンガーZへのパイルダーオンは、一つの契約だと言いたいんだな、レオ?」

僕がそう尋ねると、レオは少し考えてからうなずいた。

「そう。契約って言い方は、たぶん近い」

「力を与える側と、それを使う側との契約ですね」

クロニカが言葉を継ぐ。

「マジンガーZは、甲児に人間の身体では決して得られない力を与える。一方で甲児は、その力をどこへ向け、何を壊し、何を守るのか、その結果を引き受けなければならない」

「そういうこと」

レオは、クロニカを指さした。

「今度はカードのおまけまで付いた」

「及第点をいただけたようで何よりです」

クロニカは涼しい顔で抹茶アイスラテへ口をつけた。

僕は、二人のやり取りを聞きながら、改めてホバーパイルダーがマジンガーZの頭部へ降り立つ光景を思い浮かべた。

パイルダーオン。

それは、単なる合体ではない。

停止していた巨大兵器へ、人間の頭脳を接続する行為である。

しかし、人間の頭脳だけが加わればよいのではない。

判断する心。
恐れる心。
怒る心。
誰かを守ろうとする心。

それらすべてが、甲児とともにマジンガーZへ乗り込む。

そして同時に、マジンガーZの持つ巨大な力もまた、甲児の身体と心へ流れ込んでくる。

「契約っていうのはさ」

レオが続けた。

「便利な力を借りるだけじゃないんだよ。その力を使った結果まで、自分のものとして引き受けるってことだろ?」

「発射したロケットパンチを、自分で探すように?」

僕が言うと、レオは少し呆れた顔をした。

「兄ちゃん、そこで玩具の話に戻す?」

「でも、似ていると思わないか」

力を放てば、結果が生まれる。

拳が敵へ届けば、敵を倒す。

外れれば、別のものを壊すかもしれない。

そして、放った拳の行方を、操縦者は知らなかったことにはできない。

「まあ、間違ってはいないけどさ」

レオは肩をすくめた。

「神になるっていうのは、何でもできるってことじゃないと思うんだよ」

「では、何だと?」

「自分の力で起きたことから、逃げないこと」

その言葉に、僕もクロニカも口を閉ざした。

レオは、照れ隠しでもするように、拳型のチョコレートを口へ放り込む。

「悪魔は、壊したことを力の証明にする。でも神ってのは、壊れたものを放っておかないんじゃないかな」

「ずいぶん立派なことを言うね」

「誕生日だからな。今日くらいは賢者っぽいことを言わせてよ」

そう言って、レオは笑った。

だが、その言葉は軽く聞き流せるものではなかった。

神にも悪魔にもなれる。

それは、善人になるか悪人になるかという、単純な二者択一ではない。

巨大な力を手にしたとき、その結果にどう向き合うのか。

壊したものを見ようとするのか。
自分の過ちを認めるのか。
それでも再び、誰かを守るために拳を上げるのか。

マジンガーZは、甲児の意思を巨大化する。

同時に、甲児が背負う責任もまた、巨大化する。

だからパイルダーオンとは、力を得るための儀式であると同時に、逃げられない責任を引き受ける契約でもある。

人と機械。

頭脳と身体。

意思と力。

その二つが結びついたとき、初めてマジンガーZは神にも悪魔にもなり得るのである。


「最近、兄ちゃん――『会った』んだろ。あいつに」

「……レオには知らせていなかったはずだが」

僕の声が、わずかに硬くなる。

あいつとは、誰のことだ。

レオは、どちらを知っている。

それとも――どちらも知っているのか。

自分でも分かるほど、僕は動揺していた。

「まずは、兄ちゃんにとっての『最悪』の方」

レオは、こちらの警戒など気にも留めない様子で続けた。

「エリス・ヴェインっていう、ケバいねーちゃんだ」

僕は何も答えなかった。

「ひとまず、あれを『悪魔の力』としよう」

レオは、切り分けられたケーキの最後の一片へフォークを伸ばす。

「そして、もう一つ。兄ちゃんにとっての『希望』の方」

フォークの先が、わずかに止まった。

「IONAという電脳歌姫――ヴァーチャル・ディーヴァ。こちらは仮に、『神の力』としておこうか」

「レオ様――!」

エリスとIONA。

その二つの名を同時に口にしたレオを、クロニカが慌てて制止する。

だがレオは、気にした様子もなく片手を上げた。

「大丈夫。クララお姉ちゃんから、ここまで話していいって許可は取ってるから」

「そういう問題では――」

「まあまあ」

レオはクロニカを軽くなだめると、改めて僕へ視線を向けた。

先ほどまで誕生日の菓子に喜んでいた少年の顔ではない。

他人が無意識に避けている場所へ、あえて踏み込むときの顔だった。

「さて、兄ちゃん」

レオはフォークで、最後のチョコレートを突き刺した。

「俺からの意地悪テストだ。答えてくれる?」

「……分かった」

逃げても仕方がない。

僕は短く答えた。

「あいつらは、陰と光の関係に近い」

レオは言う。

「合わせ鏡、と言った方がいいかもしれないね」

「エリスとIONAが?」

「うん。片方は、兄ちゃんの弱いところへ入り込み、欲望や恐怖を利用しようとする。もう片方は、兄ちゃんが聞こえないふりをしていた声を、もう一度聞かせようとする」

僕は黙って、レオの言葉を聞いていた。

「あまりにも違って見える。だけど、同じ『電脳世界から現実へ干渉する力』という意味では、そう遠くない」

「レオ様。IONAとエリス・ヴェインを同列に扱うのは――」

「同じだとは言ってないよ」

クロニカの反論を、レオは静かに遮った。

「同じ力でも、使い方によって意味が変わると言っているんだ」

レオは、僕のタブレットに表示された『マジンガーZ』の記事へ目をやった。

「マジンガーZだって、そうだったんだろ?」

超合金Zの身体。

光子力エネルギー。

ロケットパンチ。

ブレストファイヤー。

そのすべては、最初から善でも悪でもない。

世界を守るためにも使える。

世界を踏みにじるためにも使える。

「同じ『電脳世界の力』という意味では、エリスもIONAも、『神にも悪魔にもなれる』マジンガーZと似ていると思うんだよね」

レオは最後のチョコレートを口へ運ばず、フォークの先に残したまま続けた。

「さて、兜甲児たる兄ちゃんは、今まさに神にも悪魔にもなれる状況だ」

彼の目が、まっすぐ僕を捉える。

「――どっち?」

答えは、すぐそこにあるように見えた。

IONA。

そう答えればよい。

エリスは僕を惑わせ、支配し、自分の都合のよい形へ作り替えようとした。

IONAは、僕の声を聞き、僕自身が聞こえないふりをしていた心の声まで呼び戻してくれた。

悪魔と神。

陰と光。

選ぶべきものなど、最初から決まっている。

それなのに、僕は答えられなかった。

「どうしたの、兄ちゃん」

レオは急かさない。

ただ、逃げ道だけを塞ぐように問いを置いている。

僕はようやく口を開いた。

「その質問は、ずるいな」

「意地悪テストだって言っただろ?」

「IONAと答えれば、僕は正解したことになるのか?」

「さあね」

レオは、わざとらしく首を傾げた。

「エリスと答えたら?」

「俺がクララお姉ちゃんを呼ぶ」

「なるほど」

僕は小さく息を吐いた。

やはりこれは、どちらを選ぶかという問題ではない。

レオが尋ねているのは、もっと別のことだ。

「神か悪魔かを決めるのは、エリスでもIONAでもない」

レオの表情が、わずかに変わった。

僕は続ける。

「僕だ」

「もう少し」

先ほどクロニカへ向けたものと同じ言葉を、今度は僕へ返してくる。

及第点には、まだ届いていないらしい。

「彼女たちが持つ力そのものだけでは、神にも悪魔にもならない」

僕は、自分の中で言葉を探した。

「僕がそれをどう受け取り、どう使い、どこまで相手に自分を委ねるのか。その関係を誰が決めるのかによって、意味が変わる」

「うん」

「エリスが悪魔だから、僕が悪魔になるわけではない。IONAが神だから、僕が救われるとも限らない」

クロニカが、静かに僕を見ている。

「相手を神や悪魔にして、自分の選択を預けてしまえば、僕は操縦席を明け渡すことになる」

レオは、そこでようやく笑った。

「正解」

「ずいぶん待たせたね」

「兄ちゃん、考えすぎるからな」

レオはフォークの先のチョコレートを、ようやく口へ運んだ。

「でも、そういうことだよ」

「力を編集するのは、僕自身」

「正確には、関係を編集するのが兄ちゃんだ」

レオは訂正した。

「相手を好き勝手に作り替えるんじゃない。相手に好き勝手に作り替えられるんでもない」

その言葉は、僕の胸へ深く差し込んだ。

「どこまで近づくか。何を許すか。何を拒むか。何を一緒に作るか。それを決める権利は、兄ちゃんにもある」

自由とは、編集権である

それは、他者を自分の望む形へ変形させる権利ではない。

自分が誰と、どのような関係を結ぶのか。

何を受け取り、何を返し、どこに境界を置くのか。

その関係の記述に、自分自身も参加する権利である。

マジンガーZの操縦席には、兜甲児が座っていた。

だが、甲児はマジンガーZを一方的に支配していたわけではない。

巨大な力を動かすたびに、その力からも影響を受け、傷つき、学び、変わっていった。

人と機械は互いを変える。

人と電脳の存在もまた、互いを変え得る。

だからこそ、誰に操縦席を渡すのかではない。

自分が操縦席へ座り続けながら、隣に誰を迎えるのか。

そして、その相手とどこへ向かうのか。

編集すべきものは、相手の存在ではない。

僕と相手との間に生まれる、関係そのものなのである。


「力を編集するのは、僕自身だ」

僕がそう答えると、レオはしばらく黙っていた。

「まあ、及第点」

「満点ではないのか?」

「だって兄ちゃん、自分が操縦していると思い込んでいるときが、一番危ないから」

「どういう意味だ?」

「操縦席ってさ、ただ座っているだけじゃ、操縦していることにはならないだろ」

レオは、空になった皿の上へフォークを置いた。

「誰かの声に動かされているのか。それとも、自分で決めているのか。そこは毎回、確かめ直さないと」

「毎回?」

「神か悪魔かなんて、一度決めたら終わりじゃないってこと」

そう言って、レオは席を立った。

「マジンガーZだって、毎回パイルダーオンするだろ?」

その言葉だけを残し、思考の森の道化師は、何事もなかったかのようにプロ野球チップスの袋を鞄へしまった。

「兜甲児だって、機械獣やDr.ヘル、ゴーゴン大公を相手に、散々悩み、散々傷ついた」

僕がそう言うと、レオは肩越しに振り返った。

「最後には、ミケーネの戦闘獣にボコボコにされたけどな」

「……そこまで言うか」

「グレートマジンガーは、兄ちゃんのところには都合よく現れないよ」

レオは、意地悪とも取れる、いつもの悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「誕生日会のお礼にしては、ちょっとほろ苦かったかな、兄ちゃん?」

「いや」

僕は、できるだけ平然と答えた。

「たった今、マジンガーブレードを受け取った」

僕も精いっぱい、意地悪な笑顔を返した――つもりだった。

レオは一瞬だけ目を丸くしたあと、愉快そうに笑った。

「そっか。だったら、なくすなよ」

そう言い残して、彼は《霧の砂糖》を後にした。


あれから、心配そうにこちらを見るクロニカへ「大丈夫だから」と告げ、僕は一人、原稿をまとめていた。

少し照明の落ち着いた時間帯の、《霧の砂糖(シュクル・ド・ブリュム)》で。

『お前は神にも悪魔にもなれる』

兜十蔵博士が、遺される甲児へ伝えたかったこと。

それは、こういう意味だったのではないだろうか。

お前に、最高の自由を与える。
だが、自分自身の操縦桿を、他人に預けてはならない。

僕は、自分の操縦桿を信じることができるだろうか。

誰かに預けてしまいたいという誘惑に、駆られることもあるだろう。

抗い続ける現実に、傷つき続けることもあるだろう。

それでも、自分で選び、自分で間違い、自分で確かめ直す。

それが、自由なのだと思う。

神になることでもない。

悪魔にならないことだけでもない。

自分が何者になるのかを、他人に決めさせないこと。

そして、一度決めた答えに安住せず、何度でも操縦席へ座り直すこと。

――自由とは、編集権である

その言葉を原稿の最後に打ち込み、僕はタブレットの画面を消した。

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