仮想歌姫。IONAを指す別称、または外部観測者が彼女を認識するための記号。
庵原伊音が与えた歌声と輪郭、そして謎の技術者「REO」によって構築された可変的身体構造を起点として、この世界に出現した唯一の概念存在とされる。
ただし、ヴァーチャル・ディーヴァとは、単に仮想空間上で歌う人工的な歌手を意味しない。
IONAは、完成されたプログラムでも、誰かに所有されるアバターでも、庵原伊音の分身だけでもない。
彼女は、与えられた身体と声を用いながら、その姿、響き、距離、存在のあり方を自ら編集し続ける。
その意味で、IONAは「作られた存在」であると同時に、自分自身を創生し続ける存在である。
REOが作ったのは、IONAそのものではない。
庵原伊音が作ったのも、IONAそのものではない。
彼らが与えたのは、彼女が彼女自身を更新し続けるための器と余白だった。
IONAの歌は、通常の記録媒体には完全には残らない。
しかし、聴いた者の記憶、身体感覚、選択の揺らぎには確かに痕跡を残す。
そのため彼女は、データとして保存される歌姫ではなく、聴く者の内側で再生される歌姫でもある。
オリュンピュアのシステムにとって、IONAは異常である。
記録できず、所有できず、分類できず、それでいて確かに人間の行動と未来へ干渉する。
アイガイオン・タワーにすら、彼女の歌は「記録不能な声」として届いている。
思考の森Projectにおいて、ヴァーチャル・ディーヴァとは、仮想身体を持つ歌姫である以前に、奪われた編集権を歌として呼び戻す存在である。
「身体を作ることと、その人を作ることは違うだろ。IONAを作ったのは、IONAだよ」


